2019.8.8
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相続

【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?

(画像=PIXTA)
(画像=PIXTA)
最近、テレビや新聞などで「家族信託」という制度が取り上げられることが増えてきました。聞いたことがあるという方も多いのではと思います。私の事務所でも家族信託に関連するご相談がとても増えています。

今回は近年利用が増えている家族信託について解説いたします。

家族信託とは?

家族信託とは、不動産や金銭などの財産の管理や承継を信頼できる家族に元気なうちに託しておく制度です。「信託」という文字をみると、銀行に頼んで行うものだと誤解する人も多いのですが、家族信託はあくまで「家族を信じて」、「財産」のことを「託す」制度です。言い換えれば、家族が家族のために行う財産管理の制度、ということになります。平成18年に信託法が改正されたことにより、一般の方でも信託が利用しやすくなりました。
 
それでは、まずは家族信託の利用が増えている背景を確認してみましょう。

“超”認知症社会の到来

超高齢社会の進展に伴い、認知症高齢者の人数は増加傾向にあります。平成29年度の高齢社会白書(内閣府)によると、2012年の認知症高齢者数は約462万人ですが、団塊の世代が75歳以上となる2025年には約730万人に上る(高齢者の約5人に1人)とされています。先日政府が発表した認知症施策推進大綱を受けて、今後様々な認知症の予防策を講じていくことになると思いますが、劇的に認知症高齢者の人数を減らすことは難しいでしょう。

認知症を発症すると、「判断能力(物事のメリット・デメリットを理解する能力)」を喪失する可能性があります。法律上、判断能力がない状態で行われた行為は無効となってしまいますので、認知症を発症すると、自分ではお金や不動産の管理・処分ができなくなる可能性があります。つまり、認知症を発症すると「財産凍結」のリスクがあるということです。

財産の凍結とは?

財産が凍結してしまうと、下記のようなことができなくなる可能性があります。
 
①お金に関すること
例 ×預金の引き出し ×定期預金の解約 など
②不動産に関すること
例 ×売却 ×リフォーム ×建替え ×修繕 ×借入れ など
③相続に関すること
例 ×相続税対策 ×遺産分割協議(相続手続)など

最近増えているご相談は、高齢の親が認知症を発症して、預貯金が引き出せなくなってしまった、親名義の実家が売却できなくなってしまったというケースです。預貯金が引き出せなくなると、親の介護費用や医療費などは子供が立て替えなくてはならないかもしれません。また、実家を売却してこれらの費用に充てることも難しくなってしまいます。

このような財産凍結の問題は、今後より一層深刻なものとなっていくことでしょう。
それでは、財産が凍結してしまった場合には、どのように対処したら良いのでしょうか。

成年後見制度とは

認知症を発症し財産が凍結してしまった場合、「成年後見制度」を利用するしかありません。

成年後見制度とは、判断能力が不十分な人を法律面や生活面で支援する制度で、家庭裁判所が運用しています。判断能力が不十分な人を支援する人を後見人、支援される人を被後見人といいます。後見人の役割は、財産管理(預貯金の管理、不動産などの売買契約や賃貸借契約の締結、遺産分割など)と身上監護(介護の手続き・施設入所の契約、病院の手続き等)の役割があります。

成年後見制度には、元気なうちに契約で後見人を決めておく「任意後見」という制度と、認知症などで判断能力が不十分となってしまった後に裁判所が後見人を決定する「法定後見」という制度があります。

法定後見には、判断能力の程度に応じて「後見」、「保佐」、「補助」3つの類型があります。財産凍結のケースで利用することになるのは、「法定後見」の制度となります。

法定後見制度のデメリット

法定後見制度には、認知症等で判断能力が不十分となってしまった人の財産を詐欺被害や不当な契約から守ることができるメリットがある一方で、下記のようなデメリットが指摘されています。

①後見が開始すると財産が裁判所の監督下に置かれることになるので、原則本人(被後見人)のためにしか財産は使えなくなります。
②後見人に弁護士や司法書士などの専門家が選任される可能性があります。
③専門家が後見人に選任された場合、報酬が発生します。
④後見制度は本人(被後見人)の財産を守ることが目的なので、生前贈与、生命保険の活用、不動産の活用などの相続税対策を行うことができなくなります。
⑤原則として本人(被後見人)が亡くなるまで後見が続くことになります。

後見制度の利用にあたっては、上記のようなデメリットがあるということに留意しなければなりません。特に、家族ではなく、裁判所や専門家に費用を払い財産管理をしてもらうことになるかもしれない、ということには注意が必要です。
以上のように、認知症発症により財産が凍結してしまった場合、成年後見制度を利用する他ありません。成年後見制度を利用した場合、今までのように「家族」で財産管理を行うことが難しくなってしまうのです。

そこで、認知症によって財産が凍結した場合でも、裁判所や専門家ではなく、「家族」で財産管理ができる制度として「家族信託」の利用が急増しているのです。

家族信託の仕組みを確認してみよう

家族信託を開始するには、委託者(財産の管理を託す人)と受託者(財産の管理を託される人)が信託契約を締結する必要があります。信託契約の中で、受益者(信託から利益を受ける人)や信託財産(管理権限を受託者に移転する財産)などを決定します。

家族信託では、委託者と受益者は同一人物となるのが一般的です。家族信託で最も多いのは、高齢の親(委託者兼受益者)が元気なうちに子供(受託者)に財産管理をお願いするケースです。

子供に財産の管理権限を移転しておくことで、親が認知症などで判断能力を失った後でも、子供が親に代わって財産管理を行うことができます。

【家族信託の基本パターン】
 

家族信託の始め方

家族信託はどのように始めるのでしょうか?法律上特に決まりがあるわけではありませんが、相続、遺言、後見などの専門知識が必要となるので、まずは司法書士や弁護士に相談するのが一般的です。また、相続税対策と同時に行うケースも多いので税理士に相談するケースもあります。
弊社で進めていく場合には、下記のような流れで進めていくことになります。

① 初回相談、基本情報のヒアリング

② 提案書の作成・スキームのご提案

③ 家族会議

④ 信託契約書(案)の作成

⑤ 公証役場・金融機関との調整

⑥ 公証役場にて家族信託契約の締結

⑦ 信託不動産の登記

⑧ 金融機関での信託口口座の開設と信託口口座への入金

⑨ 信託開始

事案にもよりますが、概ね2ヶ月程度で家族信託を開始できるのが一般的です。家族信託だけでなく、遺言や任意後見などを同時に作成するケースも多いです。

家族信託の相談は非常に増えている一方で、すでに判断能力が低下していて家族信託の契約ができない状態となってからのご相談も多くあります。

言うまでもないことですが、家族信託を行うにも判断能力が必要です。元気なうちに一度専門家に相談し、ご家族で生前対策について話し合いをしておくと良いでしょう。
 
元木 翼 もときつばさ
チェスナット司法書士法人・行政書士事務所 代表
千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。

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