2019.8.23
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相続

【司法書士の目~VOL.4】「成年後見制度」と「家族信託」の違いを知ろう

(画像=Dmytro Zinkevych/Shutterstock.com)
(画像=Dmytro Zinkevych/Shutterstock.com)
これまで判断能力低下後の財産管理としては、「成年後見制度」が利用されてきました。近年、新しい財産管理・承継の手法として「家族信託」が急速に普及しています。どちらも本人の財産を家族などの第三者が管理する方法です。今回は両者にどのような違いがあるのか、整理してみたいと思います。

1 「成年後見制度」とは

成年後見制度とは、認知症などが原因で判断能力が低下してしまった方を支援するための制度です。支援する人を後見人、支援される人を被後見人といいます。成年後見制度は、家庭裁判所が運用しており、法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。

法定後見制度は、判断能力低下後に家庭裁判所が後見人を決定します。「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があり、判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等が,本人の利益を考えながら,本人を代理して契約などの法律行為を行うことで、本人を保護・支援します。

任意後見制度は、本人が元気なうちに、将来判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ後見人を自ら選んでおくものです。この制度を利用するのは、事前に任意後見受任者(任意後見人となる予定の者)と公正証書により契約を締結しておくことが必要です。また、任意後見開始時には、任意後見人を監督する任意後見監督人が必ず家庭裁判所によって選任されます。

2 「家族信託」とは

家族信託とは、不動産やお金などの財産の管理や承継を信頼できる家族に託す制度です。家族信託は、文字通り「家族を信じて託す」という意味です。銀行や証券会社ではなく、家族を信じて財産管理を託すのです。言い換えれば、家族による家族のための財産管理・承継制度といえます。家族信託を利用することにより、遺言や成年後見制度などではできなかったオーダーメイドの財産管理・承継が可能となります。

家族信託では、財産の管理を託す人を「委託者」(いたくしゃ)、財産の管理を託される人を「受託者」(じゅたくしゃ)、信託から利益を受ける人を「受益者」(じゅえきしゃ)といいます。高齢の親(委託者)が、自らを受益者として、子供(受託者)に財産管理をお願いするケースが家族信託の典型例です。

3 「家族信託」と「成年後見制度」の違い

一見似たような制度ではありますが、両者には下記のような違いがあります。

機能

成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産管理・身上監護(病院、介護、施設などの手続き)を行うことが主な目的です。一方で、家族信託は、信託契約で定めた「信託目的」にしたがって、元気なうちから家族に財産管理をお願いし、さらに財産を円滑に承継させる機能もあります。

つまり、成年後見制度は、財産管理+身上監護、家族信託は、財産管理+財産承継の機能があります。

なお、成年後見制度の財産管理は家庭裁判所の監督下で行われますが、家族信託の財産管理はあくまで家族の中で行うことになります。

始まりと終わり

成年後見制度は、本人の判断能力の低下「後」にスタートし、本人の「死亡」によって終了します。

家族信託は、原則として本人に判断能力がある「元気なとき」(判断能力の低下「前」)に開始し、本人の死亡など信託契約で定めた終了事由の発生により終了することになります。本人が死亡したときに終了するケースが一般的ですが、本人の死亡では終了させず、孫や曾孫などの数世代先まで継続させることも可能です(「受益者連続型信託」、「後継ぎ遺贈型信託」などと呼びます)。

財産管理・処分の対象と権限

成年後見制度では、家庭裁判所から選任された「後見人」が財産管理・処分を行います。
後見人の権限は原則として「全財産」に及ぶことになります。一定の財産には、処分に家庭裁判所の許可が必要となります。

家族信託では「受託者」が財産の管理・処分を行います。受託者の権限は、信託契約によって定められた「信託財産」にのみ及ぶことになります。受託者は信託契約に定めがあれば、信託目的の範囲内で信託財産の管理・処分を行うことができます。後見制度と異なり、裁判所の許可は不要です。

監督者

成年後見制度では、家庭裁判所の監督下に置かれるため、後見人は裁判所に対して定期的に報告をすることが必要です。また、成年後見監督人という後見人を監督する者が選任される場合があります。

一方、家族信託では家庭裁判所に定期的に報告する必要はありません。信託契約に定めがあれば、受託者を監督する信託監督人や受益者の代理人である受益者代理人を選任することが可能です。

イニシャルコスト

成年後見制度を利用するには、家庭裁判所への申立手続きが必要です。申立手続きを司法書士や弁護士に依頼した場合には、印紙代などの実費を含めて10万円程度費用がかかります。

家族信託を開始するには、司法書士や弁護士などに依頼するのが一般的です。費用の詳細はVOL3をご覧ください。

ランニングコスト

成年後見制度では、後見人は「家庭裁判所」が選任します。家族が必ずしも選任されるわけではなく、司法書士や弁護士などの専門家が後見人に選任されるケースが増えています。専門家が選任された場合、財産額に応じて報酬(月3万円~4万円程度)が発生することになります。

また、本人の資産が一定額以上ある場合や任意後見制度を利用した場合など、後見人を監督する「後見監督人」という者が選任されます。後見監督人はほとんどのケースで専門家が選任されますので、上記と同様に報酬が発生いたします。

家族信託では、原則としてランニングコストは発生しません。ただし、信託契約により信託監督人や受益者代理人として専門家を選んだ場合(必ず選任しなければならないわけではありません)には、専門家報酬が発生することになります。

【参考1】
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/130131seinenkoukennintounohoshugakunomeyasu.pdf
【参考2】
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20190313koukengaikyou-h30.pdf
のP13・P14引用

本人死亡後の相続手続

成年後見制度は本人の死亡によって終了するため、本人死亡後の相続手続きは原則として「相続人」が行う必要があります。成年後見制度の利用によって、相続手続きがスムーズになるわけではありません。
 
一方、家族信託では、信託契約の中で本人死亡後の信託財産の承継先を決定することも可能です。承継先を決定しておけば、遺言書を残していた場合と同様に、相続手続きをスムーズに行うことができます。

4 最後に

成年後見制度と家族信託は、似て非なる制度といえます。開始時期、制度目的、権限など
異なる部分が多く存在します。
両者の違いやメリット・デメリットを理解し、自分と家族にとってどちらが最適な方法なのか決定しましょう。

生前対策で最も大切なことは、「元気なうち」に開始することです。専門家を交えて一度家族で話し合いをしておくことをおすすめします。
 
元木 翼 もときつばさ
チェスナット司法書士法人・行政書士事務所 代表
千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。

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