2019.10.15
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相続

【司法書士の目~VOL.6】「家族信託」の受託者になる前に知っておくべき3つの注意点

(画像=phloxii/Shutterstock.com)
(画像=phloxii/Shutterstock.com)
近年、急速に利用が拡大している「家族信託」。主に認知症対策として、高齢の親の財産を子どもが代わりに管理・処分する目的で利用されています。財産を託され、親の代わりに管理・処分する者を「受託者」と呼びますが、今回は、「家族信託」の受託者になる前に知っておくべき3つの注意点について解説したいと思います。これから家族信託を始めようとする方にとって必見の内容です。是非、ご一読下さい。

※家族信託の制度説明については、【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?をご覧ください。

〈注意点①〉信託財産と自分の財産とは分別して管理しなければならない

受託者には、信託財産(=委託者から管理などを任された財産)と、受託者固有の財産とを分別して管理する義務があります。これを法律上、「分別管理義務」といいます。信託によって引き受けた財産は、あくまで受益者のための財産ですから、自身の財産とは分けて管理することが求められるのです。

例えば、不動産を信託する場合、信託契約の成立後に信託の登記をすることが必要です。信託の登記をすることにより、登記簿には受託者の氏名が明記され、登記簿の末尾には信託目録が作成されます。信託目録により受益者の氏名や信託の目的などが公示され、その不動産が受託者固有の財産ではなく、受益者のための信託財産であることが明らかになります。信託の登記については、司法書士等に依頼することが一般的です。

また、金銭を信託する場合、実務上は「信託口口座」という信託専用の口座を開設することが推奨されています。この口座は必ずしも法律上必須とされるものではありませんが、受託者における分別管理義務を徹底するために、実務上は開設するケースがほとんどです。

受託者個人の預金口座に金銭を入れてしまっては分別管理としては不十分といえます。信託口口座とは、一般的に「委託者〇〇受託者〇〇信託口」という名義で開設され、受託者が受益者より先に死亡しても、受託者の相続人ではなく次の受託者に承継される、受託者個人が破産しても信託口口座の金銭が保全されるなどの機能を有した口座をいいます。

しかし、この信託口口座の開設に対応している金融機関は全国でもまだ限られています。近辺に対応可能な金融機関が無い場合は、受託者名義の通常の預金口座を新たに開設し、そこで信託された金銭を管理することで、分別管理の義務を果たす方法も考えられます。この場合、前述の信託の特徴を備えた口座ではありませんので、扱いには注意が必要ですが、分別管理という受託者の義務は果たされることになります。

〈注意点②〉受託者には無限責任が課されている

受託者の責任は、原則として「無限責任」とされています。無限責任とは、信託から生じた債務について、信託財産から支払えない場合には受託者個人の財産からも支払わなければならない責任を言います。例えば、アパートを信託した場合、受託者はアパートの所有者となりますから、災害等でアパートが倒壊して損害が発生すれば、受託者は所有者として責任を負うことになります。信託財産で損害を賠償できなければ、受託者自身の財産で賠償しなければなりません。

また、受託者が受益者のために、銀行から融資を受け、古いアパートを建て替えたとします。この際、銀行からの借入れに対しては、まずは信託財産(アパートの賃料など)によって返済することになりますが。同時に自身も固有の財産をもって返済する義務を負っていることになります。

つまり、信託財産が不足すれば受託者が自身の財産で返済しなければなりません。銀行は、信託財産だけでなく、受託者自身の財産に対して強制執行をすることもできます。

受託者になるということは、他人の債務について保証人になることと同じです。受託者になる場合は、そのリスクを承知した上で引き受ける必要があります。

〈注意点③〉受託者が何でもできるわけではない

受託者には、信託財産を管理処分する権限が与えられています。例えば、親から信託された金銭を親の医療費や生活費に充てること、親から信託された収益物件の管理を行い賃料等の収益を親に給付すること、必要に応じて信託財産を売却することなどが一般的に受託者に与えられる権限です。

受託者の権限はあくまで信託財産に限って及びますので、信託されていない財産には、何らの権限も及びません。家族信託では、どの財産を信託するかは契約で自由に決めることができますが、受託者が権限を有するのは、契約で定めた信託財産のみです。

これに対して、成年後見制度における成年後見人には本人の全財産に権限が及びます。
また、受託者には、「身上監護権」が認められていません。身上監護権とは、生活、治療、療養、介護などに関する法律行為を行う権限をいいます。例えば、施設との入所契約や病院との入院契約などがこれにあたります。この点、成年後見制度における成年後見人は、身上監護権と財産管理権の双方を有しています。

家族信託と成年後見制度にはそれぞれメリットとデメリットがありますので、ご家族の事情に合わせて使い分ける、あるいは併用することが求められます。

※成年後見制度との違いについては、【司法書士の目~VOL.4】「成年後見制度」と「家族信託」の違いを知ろうをご覧ください。

さらに、受託者は、「信託の目的」に従って権限を行使しなければなりません。権限の範囲内であれば何を行ってもいいというわけではなく、信託契約によって定めた信託の目的に縛られることになります。

この点、信託目的に適った権限行使がしっかりなされているかは外部から分かりづらいので、受託者の権限濫用を抑止すべく、信託監督人等の監督機関を設置して、受託者の業務を監視・監督するケースもあります。信託監督人等には、受託者以外の親族や司法書士等の専門家を指定することになります。

受託者になる前には、「家族信託を利用することで家族の想いを実現できるか」を検討する必要があります。また、受託者として業務を行う際には、「その行為が契約に定めた権限内のものか」、そして「その行為が受益者の利益になるか」という視点を持つことがとても重要になります。

〈最後に〉

受託者は他人の財産を管理処分する権限を有しますので、これに応じて上記以外にも法律上様々な義務が課されています。例えば、以下のような義務が挙げられます。

●忠実義務:受託者は、受益者の利益のためにのみ行動すべきであるという義務

●公平義務:1つの信託に複数の受益者がいるとき、受託者はこれらの受益者全員を平等に扱わなければならないという義務

●善管注意義務:受託者として通常期待される高い注意義務をもって信託事務を行わなければならない義務

●帳簿作成義務:信託財産に関する帳簿や財産目録を作成しなければならないとする義務

●信託事務遂行義務:受託者は、信託の目的を達成するために信託事務を行わなければならないとする義務

このように、家族信託の「受託者」に就任すると、多くの責任や義務が伴います。受託者になる方はこれらを充分に理解・検討することをおすすめします。
 
元木 翼 もときつばさ
チェスナット司法書士法人・行政書士事務所 代表
千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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