2019.10.18
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相続

【司法書士の目~VOL.7】今すぐ「家族信託」を検討すべき3つのケースとは?

(画像=Andrey_Popov/Shutterstock.com)
(画像=Andrey_Popov/Shutterstock.com)
近年、認知症対策としてメディアでも数多く取り上げられている「家族信託」。一度は耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?

弊社でも、「私たちも家族信託を利用するべきでしょうか?」というご相談をいただくことが増えてきました。今回は、「今すぐ『家族信託』を検討すべき3つのケース」について取り上げてみたいと思います。ご自身のご家族の事を思い浮かべながらお読みください。

※家族信託の制度説明については、【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?をご覧ください。

【ケース①】高齢の親が収益物件を保有しているケース

一言、「不動産」と言っても、自宅と収益物件では、管理などの事務負担は大きく異なります。収益物件の場合は、テナントへの事務連絡や家賃回収から始まり、必要に応じて修繕を行い、売却や建替えを検討するときもあるでしょう。
管理会社に依頼をしていれば日常の事務を任せることはできるでしょうが、大規模修繕や売却などは、所有者の判断で行わなければなりません。

また、収益物件を複数所有している場合は、相続対策として金融機関から融資を受けて資産の組み替えを行ったり、不動産の法人化を行ったりすることもあるでしょう。管理会社に依頼していたとしても、所有者が認知症などで「判断能力」(物事のメリット・デメリットを理解する能力)を喪失してしまった場合、その収益物件は「凍結」(=管理や処分が誰もできなくなってしまう状態)してしまうことになります。収益物件を所有している高齢者は誰しも凍結リスクを有しているのです。

このようなリスクに備えて、家族信託の利用を検討すると良いでしょう。例として、高齢の父が賃貸アパートを所有しており、日常の管理事務は長男に任せているが、老朽化に伴い大規模修繕や売却の可能性があるケースを想定してみましょう。

委託者(財産を託す人)を父、受託者(財産を管理・処分する人)を長男、そして受益者(利益を受ける人)を父として信託契約を締結します。信託する財産は、賃貸アパートと金銭です。これにより、賃貸アパートを管理・処分する権限は長男に移ります。

しかし、賃貸アパートから生まれる利益(賃料など)はこれまでと変わらず受益者である父のものです。長男は、賃貸アパートのオーナーとして、家賃回収や修繕・建替えなどを行いつつ、賃料や売却代金を父に給付し、賃貸アパートだけでなく、父の生活を守ることができるのです。

同様のケースでは、成年後見制度の利用も検討できます。しかし、成年後見制度は、父の財産を保全することが優先され、時には家族の意向が認められないこともあります。
また、成年後見制度を利用した場合、財産の管理を長男が行えるとは限りません。誰が後見人として財産管理を行うかは家庭裁判所が決定しますので、家族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれるケースもあります。

もちろん、成年後見制度にもメリットもありますので、どちらを利用するのか、あるいは両方利用するべきなのかについては、必ず事前に専門家に相談の上決定するのが良いでしょう。

【ケース②】家族に認知症の方・障害者の方・ひきこもりの方がいるケース

認知症の方・障害者の方・ひきこもりの方がいるご家族は、身体のこと・心のこと・財産のことなど、多種多様な悩みを抱えています。筆者は、ひきこもり支援団体の理事としても活動しており、近年は、家族信託を利用したひきこもりの財産管理・承継についてもサポートをする機会が多くあります。様々なご家庭の話を聞く中で、最も多いご相談は、「親亡き後問題」に関するものです。

例えば、両親と長男、長女の4人家族で、長男が障害により自身で財産管理をできないケースを考えてみましょう。両親が元気な内は、これまでどおり両親のサポートの下、変わらず生活を送ることができます。

しかし、両親が認知症になってしまった場合には、親自身の財産管理だけではく、長男の財産管理についても問題が生じることになります。さらに、両親亡き後については問題はより深刻化します。良かれと思い、長男に財産を多く相続させてもご自身での財産管理はできません。一方で、長女に財産を相続させても、それは長女の財産となりますから、長男の生活のために使うにも制限があります。

そこで、弊社ではこのような場合家族信託の検討をおすすめしています。委託者を親、受託者を長女、最初の受益者を親として、信託契約を締結します。これにより、親が認知症になっても、長女が受託者として、親が健在の間は親の財産を守ることができます。

また、親が死亡した後は、第二受益者として長男を指定することで、家族信託を継続し、長女が引き続き、長男のために財産を管理することができます。家族信託を利用することにより「親亡き後」もこれまでどおり財産の管理が可能となり、また財産の承継も円滑になされることになります。

このように、家族信託は、認知症の家族・障害者の家族・ひきこもりの家族を守るために、家族が利用できる制度でもあるのです。

【ケース③】親の判断能力が少し気になってきた家族のケース

超高齢社会の進展に伴い、認知症高齢者の人数は急増しています。認知症を発症すると、「判断能力」を喪失する可能性があります。法律上、判断能力がない状態で行われた行為は無効となってしまいますので、認知症を発症すると、自分ではお金や不動産の管理・処分ができなくなる可能性があります。このような資産凍結の問題は、今後ますます深刻化していくことでしょう。

弊社にご相談に来られるお客様も、すでに親が認知症で、判断能力を喪失してしまっているケースが少なくありません。しかし、認知症対策として利用される家族信託も、判断能力を喪失した「後」には、もはや利用することができなくなってしまいます。なぜなら、家族信託を開始するには、委託者と受託者で「信託契約」を締結する必要があり、契約を締結するには判断能力が必要となるからです(判断能力がない状態で締結された契約は法律上無効です)。事前に認知症対策を行っていなかった場合、事後的にとれる手段は「成年後見制度」しかありません。

成年後見制度とは、判断能力が不十分な人を法律面や生活面で支援する制度です。家庭裁判所が運用しています。成年後見制度には、高齢者の財産を詐欺被害などから守ることができるというメリットがある一方で、後見が開始すると財産が裁判所の監督下に置かれることになり、原則本人(被後見人)のためにしか財産は使えなくなる、後見人に弁護士・司法書士等の専門家が選任されて報酬がかかる場合があるなどのデメリットも指摘されています。

最も大切なことは、「元気なうち」に対策を開始することです。判断能力がなくなってしまった後は、対策を行うことはできません。物忘れが多くなってきたなど親に衰えの兆候が見られた場合には、手遅れになる前に早急に対策を始めることが重要です。

【最後に】

今回は、「今すぐ『家族信託』を検討すべき3つのケースとは?」というテーマで解説しました。いずれも弊社でよくご相談を受けるケースです。生前対策には、遺言や成年後見制度など様々なメニューがあります。中でも家族信託は、家族で協力し、家族で実行できる柔軟な仕組みです。

上記のいずれかに当てはまる方は、是非一度、家族信託について検討されることをおすすめします。
 
元木 翼 もときつばさ
チェスナット司法書士法人・行政書士事務所 代表
千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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