2019.8.6
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相続のプロに聞く

【司法書士の目~VOL.1】プロが教える!生前対策3つのポイント

(画像=PIXTA)
(画像=PIXTA)
「人生100年時代」と言われる昨今、元気なうちに「生前対策」を行っておくことが自分にとっても家族にとってもこれまで以上に重要となってきます。
生前対策とは、幸せな老後や円満な相続を迎えるために元気なうちから対策を行うことを言います。筆者は、事前に対策をしていなかったために、家族が困ったり悲しんだりするケースを非常に多く目にしてきました。また、最近は、認知症を発症してしまい、対策をしたくてもできなくなってしまったケースも増えてきています。

今回は、生前対策を行うにあたり大切な3つのポイントをお伝えします。これから生前対策を開始する人にとっては必見の内容です。

ポイント① 認知症対策(財産管理対策)

超高齢社会がますます進展していく中で、認知症高齢者数も年々増加しています。内閣府の調査によると、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症高齢者数はおよそ730万人に上るとされています。これは、実に高齢者(65歳以上の人を言います)の約5人に1人にあたります。今後は、ご家族の中に認知症高齢者がいるケースが非常に増えてくるでしょう。

認知症を発症し「判断能力」(物事のメリット・デメリットを判断する能力)が低下してしまうと、預貯金や不動産などの財産が凍結してしまう可能性があります。なぜなら、財産の管理や処分などを行うためには、法律上判断能力が必要となるからです。判断能力がない状態で行われた行為は無効となってしまいます。

例えば、親の介護費用や医療費などを親の預貯金から引き出す場合、親に判断能力がない状態では、いくら子供であっても預貯金を代わりに引き出すことはできません。また、親名義の不動産を売却してこれらの費用を捻出しようとしても、所有者である親が認知症である場合には、子供であっても代わりに売却することはできません。

事前に認知症対策を行っていなかった場合には、成年後見制度を利用するしかありません。成年後見制度とは、判断能力が不十分な人を法律面や生活面で支援するための制度で、家庭裁判所が運用しています。支援する人を後見人、支援を受ける人を被後見人といいます。

成年後見制度は、周りに支援をしてくれる家族がいない高齢者の財産を詐欺被害などから守ることができるメリットがある一方で、家族がいるケースでは、財産が裁判所の監督下に置かれてしまう、後見人に弁護士や司法書士などの専門家が選任される可能性があるなどのデメリットも指摘されています。

そこで、家族が認知症になってしまっても家族で財産管理ができる「家族信託」という制度が急速に普及しています。家族信託とは、財産の管理をお願いする「委託者」と財産の管理を引き受ける「受託者」との間で信託契約を締結することにより開始します。

高齢の親を委託者、子供を受託者として家族信託を利用するケースが多いです。家族信託を利用して受託者である子供に管理権限だけを移転しておくことができますので、仮に親が認知症を発症したとしても、信託した財産については凍結を回避することができます。

認知症対策も、認知症になってしまうと行うことができません。元気なうちに対策を開始することが重要です。

ポイント② 遺産分割対策(争族対策)

相続が発生すると相続人は様々な相続手続を行う必要がありますが、中でも一番重要で時間がかかるのが「遺産分割協議」です。遺産分割協議とは、亡くなった方が所有していた財産を相続人でどのように分けるかを話し合うことを言います。

円満に協議が調うケースもある一方で、残念ながら遺産分けをめぐって争いになってしまい、いわゆる「争族」となってしまうケースも増えています。自分の家族が揉めることはないだろうと多くの方は思っています。しかし、実際は、相続の発生をきっかけに、今までの不平・不満が一気に爆発し紛争に発展していくケースを筆者は何度も経験してきました。

このように、いくら仲が良い家族であっても、いざ相続が開始し遺産分割協議を行う際にはどうなるかは分かりません。そこで、相続人の間で遺産分割協議を行う必要がないように、元気なうちに「遺言」を準備しておくことをオススメします。遺言により財産の承継先を決定しておくことで、「争族」となってしまうことを防止できます。

特に、子供がいない方や離婚歴があり前妻(前夫)との間に子供いる方は、争族リスクが高いと言われています。

遺言にはいくつか種類がありますが、実務上は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」が利用されることが多いです。
自筆証書遺言とは、文字通り自ら手書きで書く遺言です。今までは、全文を自筆する必要がありましたが、法改正により財産目録部分は自筆でなくても良いことになりました。また、2020年7月より法務局で自筆証書遺言を保管する制度が開始されます。

公正証書遺言とは、公証人が作成に関与する遺言をいいます。公正証書遺言は、自筆証書遺言に比べて、効力をめぐって争いになる可能性が少ないので、実務上は公正証書遺言が利用されるケースが多いです。

認知症対策同様、遺産分割対策も判断能力があるうちにしか行うことはできません。筆者は「遺言書さえあれば」揉めないで済んだケースを何度も経験してきました。元気なうちに遺言を遺しておくことをオススメします。

<相続手続の流れ(遺言書がない場合)> 
 

ポイント③ 相続税対策

相続が発生すると相続税が課税される可能性があります。全てのケースで相続税が発生するわけではなく、総財産の合計が基礎控除額を超えた場合に課税されることになります。なお、2015年の相続税法の改正により基礎控除額は引き下げられ、相続税の課税対象となる人が増加しました。

<基礎控除額>
例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合、3,000万円+600万円×3名=4,800万円が基礎控除額となりますので、総財産が4,800万円を超えた場合に、超えた部分に対して相続税が課税されることになります。 

相続税対策には、節税対策(相続税を減少させる対策)と納税対策(相続税を納める資金を準備する対策)があります。主な相続税対策としては、生前贈与、生命保険活用、不動産活用などがあります。

相続税対策は、まずは現時点でどの程度の相続税が発生するかを試算することから始まります。そのうえで、どのような対策をどの程度行うのが最適なのかを、専門家である税理士からアドバイスを受けることになります。ここで重要なことは、「相続税専門」の税理士に依頼することです。医師と同様に、税理士にもそれぞれ専門分野がありますので、必ずしも相続税に詳しいとは限らないからです。

認知症対策、遺産分割対策と同様、相続税対策も認知症になってしまうと行うことができなくなってしまいます。相続税を支払うのは相続人です。家族が納税に困らないようにするために事前に対策をしっかり行っておきましょう。

このように、生前対策は、①認知症対策、②遺産分割対策、③相続税対策と3つのポイントを押さえて実行していくことが重要です。2015年の相続税法の改正により相続税対策ばかりがクローズアップされがちですが、認知症対策や遺産分割対策も大切です。特に、平均寿命がこれだけ長くなった現在、認知症によって財産が凍結してしまうと相続が発生するまでの長期間財産が動かせなくなるリスクがありますので、認知症対策の重要性は今後ますます高まっていくでしょう。

生前対策は「元気なうち」にしか行うことができません。手遅れになってしまう前に早めに対策を開始することをオススメします。

 
元木 翼 もときつばさ
チェスナット司法書士法人・行政書士事務所 代表
千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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