2019.10.10
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相続のプロに聞く

【司法書士の目~VOL.5】 家族信託が利用できない3つの典型ケース

(画像=Syda Productions/Shutterstock.com)
(画像=Syda Productions/Shutterstock.com)
認知症対策の手段として近年「家族信託」という制度が注目されています。マスコミなどで取り上げられることも多く、弊社での相談件数や取り扱い件数も飛躍的に増えています。一度は聞いたことがあるという方も多いことでしょう。

一方で、ご家族が家族信託を利用したいと考えていても、利用できないケースも非常に増えています。

今回は実務上、家族信託を利用できない3つの典型ケースを確認してみたいと思います。ご自身・ご家族に該当する場合はないか確認しながら読んでいきましょう

※家族信託の制度説明については、【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?をご覧ください。

<ケース1> 家族間の仲が悪い

家族信託は、委託者(財産管理をお願いする人)と受託者(財産管理を頼まれる人)との間で信託契約を締結することによって開始するのが一般的です。高齢になってきた親の認知症対策として、親を委託者、子供を受託者とするケースが最も多いでしょう。

子供が複数いるからといって、子供全員を受託者として契約をしなければならないわけではありませんので、例えば、他の家族には秘密にして、「父親」と「長男」だけで信託契約を締結して家族信託を開始することも法律上は可能です。

しかし、実務上は、「家族全員」(なお、「家族」とは委託者が亡くなった場合に相続人となる人をいいます)の同意を得た上で家族信託を開始することが推奨されています。家族信託により、信託財産(信託契約により受託者に管理権限を与える財産。必ずしもすべての財産を信託財産としなければならないわけではない。)の管理権限は受託者に移転することになりますので、家族信託の開始を知らされなかったことにより、相続が起きた際に他の家族とトラブルに発展する可能性があるからです。

もちろん、家族信託により受託者に財産を贈与してしまうわけではなく、あくまで受託者には信託財産の「管理権限」のみが移転するだけです。家族信託をしただけでは、他の家族に特に不利益が及ぶようなことはありませんが、信託が開始した後は、親のお金の一部を受託者名義の信託口口座で管理したり、親名義の不動産を受託者の名義に変更したりすることになりますので、まるで「遺産分け」が知らぬ間に始まっているかのような印象を与えてしまうかもしれません。

したがって、相続発生後の無用な争いを避けるために、家族信託を開始する際は、家族全員の同意のもとで開始することが望ましいとされています。家族の同意は法律上必ず必要というわけではありませんが、弊社では原則として家族の同意を得て家族信託を開始するよう推奨しています。家族信託の相談先となる弁護士や司法書士の多くは、同様の対応をしていると思います。

<ケース2> 委託者の判断能力に問題がある

実務上最も多いのがケース2です。
親が認知症等により判断能力がなくなってしまった場合、親名義の預貯金を引き出したり、親名義の自宅・アパートなどを処分したりすることができなくなってしまいます。

いくら家族であっても代わりに行うことはできません。つまり、親の財産が「凍結」してしまうのです。事前に認知症対策を行っていなかった場合、事後的にとれる手段は「成年後見制度」しかありません。

成年後見制度とは、判断能力が不十分な人を法律面や生活面で支援する制度です。家庭裁判所が運用しています。成年後見制度には、高齢者の財産を詐欺被害などから守ることができるというメリットがある一方で、後見が開始すると財産が裁判所の監督下に置かれることになり、原則本人(被後見人)のためにしか財産は使えなくなる、後見人に弁護士・司法書士等の専門家が選任されて報酬がかかる場合があるなどのデメリットも指摘されています。

そこで、親が認知症などにより判断能力がなくなってしまった場合でも、裁判所や専門家に頼らず、「家族」で財産管理を行うことができる仕組みとして注目されているのが家族信託という制度です。

しかし、認知症対策として利用される家族信託も、認知症になってしまった「後」には、もはや利用することができなくなってしまいます。なぜなら、家族信託を開始するには、委託者と受託者で「信託契約」を締結する必要があり、契約を締結するには「判断能力」が必要となるからです(判断能力がない状態で締結された契約は法律上無効です)。

家族信託が利用できない理由として実務上最も多いのが、すでに認知症等で判断能力が低下・喪失してしまっているというものです。弊社にご相談いただく方も、実に約3割はこのケースに該当し家族信託を断念せざるを得ないことになります。

実務の現場で強く感じることは、家族が考える「親」の判断能力と専門家が考える判断能力にはかなり開きがあるということです。家族からみると、まだまだ判断能力は問題ないと思っているケースでも、我々のような専門家が実際にお会いするとかなり厳しいケースがよくあります。家族からすれば、親の衰えを正面から認めることは難しいということもあるでしょうから、これはやむを得ないことかもしれません。

ですので、「誰がみても判断能力に問題ない」状態で家族信託を行うことが大切となります。家族で話し合いをして、早めに対策を開始しましょう。

<ケース3> 受託者となる人がいない

先に述べたように、家族信託は委託者と受託者が信託契約を締結することによって開始するのが一般的です。受託者には、子供などの「家族」がなることになります。

したがって、家族信託を利用したくても、家族に受託者をお願いできる人がいなければ利用できないことになります。お子様がいない場合や家族と疎遠になってしまっている場合には、受託者を見つけるのは難しいといえるでしょう。

家族信託の受託者には特別な資格は必要とされていません(ただし、未成年・成年被後見人・被保佐人はなることができません)ので、厳密には「家族」でなくても、信頼できる方であるなら友人・知人にお願いすることも可能です。ただし、家族以外に受託者をお願いするケースは非常に稀でしょう。

それでは、受託者を見つけることができない場合、成年後見制度のように弁護士や司法書士などの専門家に受託者をお願いすることはできないのでしょうか。

結論から言うと、専門家に頼むことはできません。「業」として(つまり、反復継続して利益を得る意図をもって)信託を引き受けるには、信託業の免許が必要となるからです。この免許は一定の厳しい要件を満たした法人にしか与えられないので、弁護士や司法書士などの専門家が取得することはできません。

家族信託が利用できない場合は、信託銀行や信託会社が提供している「商事信託」のサービスを考えてみるのも一案です。商事信託とは、受託者を上記の免許を持った信託銀行などにお願いする信託をいいます。高額な手数料がかかる、どの不動産でも信託できるわけではない、などのデメリットはありますが、検討してもよいでしょう。

また、「任意後見」制度を利用することも有効です。任意後見とは、元気なうちに、契約により後見人を決めておく制度です(これに対して、判断能力がなくなった後に、裁判所が後見人を選任する制度を「法定後見」といいます。)。この制度であれば、家族信託と異なり、弁護士・司法書士などの専門家に後見人をお願いすることもできます。

ただし、任意後見を利用しても、財産が裁判所の監督下に置かれることは法定後見と同様です。また、後見人を監督する任意後見監督人が必ず選任されますので、後見人を専門家にお願いした場合には、後見人・監督人双方に報酬が発生することになります。

以上、今回は家族が利用できないケースとして3つの典型例を取り上げてみました。専門家に相談に行く前に家族で確認してみましょう。
 
元木 翼 もときつばさ
チェスナット司法書士法人・行政書士事務所 代表
千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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