2019.12.26
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相続のプロに聞く

【司法書士の目~VOL.10】「家族信託」と「遺言信託サービス」の違いは?

(画像=Khongtham/shutterstock.com)
(画像=Khongtham/shutterstock.com)
認知症対策による資産凍結対策の1つとして、「家族信託」の利用が急増しています。「家族信託」とは、文字通り「家族」を「信」じて、財産管理を「託」す仕組み(※家族信託の制度説明については、【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?をご覧ください)をいいますが、「信託」と聞くと、信託銀行等が行っている「遺言信託」を思い出す方も多いのではないでしょうか。

実際、お客様から遺言信託と家族信託の違いを聞かれることはよくありますし、家族信託をすでに行っているとおっしゃるお客様の話をよくよく聞いてみたら、家族信託ではなく遺言信託を行っているだけだったというケースもあります。

今回は、「家族信託」と信託銀行等で取り扱っている「遺言信託サービス」の違いについて確認してみましょう。

金融機関による「遺言信託サービス」とは?

「遺言信託」とは、信託銀行等が提供している遺言書サービスのことをいいます。具体的には、信託銀行等が、①遺言書作成の相談・支援、②遺言書の保管、③遺言の執行(信託銀行が遺言執行者として相続に関する手続きを代わりに行う)を行うサービスです。

「信託」という言葉が使われてはいますが、法律上はただの「遺言書」と同じということになります。つまり、自分で書いた「自筆証書遺言」や弁護士・司法書士などに依頼して作成してもらう「公正証書遺言」と何ら法的な効果は変わらないということです。
なお、厳密には「遺言信託」には、遺言によって信託を開始するという意味もあります(信託法第3条)が、今回は信託銀行等が提供する遺言信託に絞って話をします。

「遺言信託サービス」の流れ

一般的に「遺言信託サービス」は下記のような流れで進んでいくことになります。

①遺言書作成の相談・コンサルティング
遺言者が信託銀行等の担当者と面談を行い、遺言書の内容などについてアドバイスを受けます。

②公正証書遺言の作成
上記に基づき、公証役場にて信託銀行等を遺言執行者とする公正証書遺言を作成します。

③遺言信託の申込み
公正証書遺言の作成後、信託銀行等に遺言信託の申込みを行います。また、遺言書を信託銀行等に預けるとともに、遺言者が亡くなった際に信託銀行等に通知を行う死亡通知人を設定します。遺言書の内容は、相続が発生するまでの間は変更することが可能です。

④相続の発生
遺言者が亡くなった場合、死亡通知人が信託銀行等に相続の発生を通知します。

⑤遺言書の開示
上記の通知を受けると、信託銀行等は相続人全員・受遺者に遺言書を開示し遺言執行業務を開始します。

⑥財産調査・財産目録の作成・交付
信託銀行等は、遺言者の相続財産を調査し財産目録を作成します。財産目録を作成後、相続人全員・受遺者に財産目録を交付します。

⑦遺言執行
遺言の内容にしたがって、相続財産の名義変更、換金処分(売却・解約等)、相続人・受遺者への遺産の分配などを行います。

⑧遺言執行の完了
遺言の執行が完了すると、遺言執行完了報告書が作成され、相続人・受遺者に完了報告が行われます。

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「遺言信託サービス」のメリットとは?

「遺言信託」は、法律的には単なる遺言書と何ら変わりはありません。また、遺言の内容を実現する遺言執行者には、未成年者と破産者以外であれば誰でもなることが可能です(民法1009条)。
それでは、あえて「遺言信託サービス」を利用し、信託銀行等に遺言執行者をお願いするメリットは何でしょうか。下記が考えられます。

① 士業などに遺言執行者をお願いするよりも安心感が得られる

弁護士、司法書士、税理士などの「個人」に遺言執行者を依頼した場合、遺言者よりも先に亡くなってしまい遺言執行者が不在となってしまうリスクがあります。弁護士法人や司法書士法人などに依頼した場合、個人に依頼するよりはリスクは低いと思いますが、当然倒産や後継者不在で消滅するリスクはあります。

これに対して、信託銀行等がなくなってしまうリスクは士業などに比べると格段に低いでしょうからその点については安心できるといえるでしょう。

なお、遺言執行者は必ずしも外部の専門家に依頼しなければならないわけではありませんし、相続人がなることも可能です。また、そもそも遺言書を書く際に遺言執行者を決めておかなければならないわけではありません。

② 遺言作成時・遺言執行時に様々なアドバイスを受けられる

信託銀行の本業は、言うまでもなく顧客から預かった資産を運用し顧客にメリットを提供することです。したがって、金融資産や不動産などの有効活用について様々なアドバイスを得ることができるでしょう。

「遺言信託サービス」のデメリットとは?

それでは、次に「遺言信託サービス」のデメリットを確認してみましょう。

①費用が高額となることが多い

遺言信託サービスの費用は、主に①遺言書の作成費用、②遺言書の保管料、③遺言執行の手数料に分かれます。
総額で数百万円を超えることも珍しくありません。また、この費用には、相続税申告のための税理士報酬や登記手続のために司法書士報酬は含まれておりません。同内容の遺言書の作成を行うのであれば士業に依頼した方が総額は安くなるのが一般的です。

②揉めているケースには対応できない可能性がある

相続人の間で紛争が生じているような場合や紛争が予想されるような場合には、信託銀行等が遺言執行者への就任を拒否する可能性があります。
このような場合、別途弁護士に依頼をして紛争を解決するしかありません。

③自筆証書遺言の保管・執行は行ってもらえない

「遺言信託サービス」で信託銀行等に保管・執行してもらえるのは、信託銀行等が作成に関与した「公正証書遺言」のみです。自分で作成した自筆証書遺言の保管・執行をお願いすることはできません。

④相続税の申告や登記申請の代理ができるわけではない

信託銀行等が相続税の申告を代理できるわけではありませんので、結局相続税の申告は税理士に依頼することになります。同様に、登記申請についても司法書士に依頼することになります。

「家族信託」と「遺言信託サービス」の相違点

以上のように、「遺言信託サービス」は、「信託」という単語が用いられてはいますが、法律上は信託ではなく、単なる「遺言書」ということになります。家族信託とは、似て非なるものです。それでは、「家族信託」と「遺言信託サービス」の違いを確認してみましょう。

①認知症対策(財産管理対策)ができるかどうか

「遺言信託サービス」は、法的には遺言書ですから、「相続発生後の財産の承継先」を決定できるだけです。相続発生前には何ら効力はありませんので、遺言者が存命中に認知症などにより判断能力を喪失し財産が凍結してしまったような場合には全く役に立ちません。

これに対して、「家族信託」とは、信託契約で定めた信託財産については、委託者から受託者に管理権限が移転しますので、委託者が認知症などになった場合でも財産が凍結することはありません。また、家族信託では「信託財産の承継先」を決定しておくこともできますので、信託財産については遺言書と同様の機能があります。

②「次の次」まで承継先を決定できるどうか

「遺言信託サービス」は、法的には遺言書ですので、遺言書が亡くなった後の次の承継先までしか決定することができません。したがって、例えば、父が、子供がいない長男に遺言書により財産を承継させた場合、長男死亡後は元々父の財産であったものは「長男の妻」側に承継されていくことになります。

一方、「家族信託」は、承継先として「次の次」まで決定できる(「受益者連続型信託」といいます)ので、上記のようなケースの場合、長男に一旦承継させるが、長男亡き後は長男の妻ではなく、二男や二男の子に承継させることが可能です。

③コスト

上述のように、「遺言信託サービス」には高額な費用がかかるのが一般的です。これに対して、「家族信託」は、開始時にそれなりの費用がかかりますが、「遺言信託サービス」よりはコストを押さえることが可能です(※家族信託の費用については【司法書士の目~VOL.3】「家族信託」は誰に頼む?かかる費用は?をご覧ください)。

【最後に】

今回は、家族信託とは似て非なる「遺言信託サービス」について解説いたしました。違いをお分かりいただけましたでしょうか?ポイントは、金融機関による遺言信託は、単なる遺言書ということです。次回もお楽しみに。
 
元木 翼 もときつばさ
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア  代表 
家族信託・民事信託のミラシア 
https://kazokushintaku-mirasia.com/

千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。

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