2020.1.24
/
相続のプロに聞く

【実例】相続人の遺言書が無効ならどうする?/とちぎ未来開発

「子どもが親の家を売りたい」というのはよくあるケースです。今回は親子ではなく、関係性が少々複雑な事例を取り上げます。

相続人が「家を売りたい」理由とは

Kさん(60代男性)は、遠い親戚にあたるYさん(90代男性)の家を売りたいと考えています。Yさんは妻が他界して子どもがおらず、栃木県で一人暮らしをしていましたが、体調を崩して高齢者施設に入ることになりました。

Kさんは法的に相続の権利はありませんが、Yさんとはかつて仕事の関わりもあって親しい間柄だったため、養子縁組を考えたほどだったそうです。結局Kさんは養子にはなりませんでしたが、Yさんの遺言書で遺産の相続人になっていました。Kさんは、Yさんが入居している施設の費用を捻出するため、家を売却しようと考えていました。

そこで、Kさんは栃木市の「不動産相続の相談窓口」を訪れました。相談に当たったのは、不動産会社、とちぎ未来開発の野澤正一さんです。

Kさんは初回の相談のとき、遺言書を持参していませんでしたが、銀行で確認してもらって問題がなかったというので、そのまま媒介契約を進めることになりました。媒介契約とは、具体的な不動産売買に関わる金額や、不動産の預かり期間、報酬の受渡し時期等、約束事を書面化することです。

同時に野澤さんはKさんの了承のもとに、Yさんが入居されている施設を訪れました。「家を売ってもいいですか」とYさんに意思確認をしたところ、「いいですよ」と承諾を得ることができました。

ここまでの手続きは問題なく進めることができました。ところが2週間後にYさんの容態が急変し、老衰が始まってしまったのです。野澤さんが再び施設を訪れると、Yさんの意識はありましたが、身体の具合が相当悪いという印象を受けました。

不動産売買をやめたほうがいいのでは

このまま家を売りに出した場合、最短でも1ヶ月半、長ければ1年ほどかかります。そもそも売却の理由は「Yさんの施設の費用のため」ということでした。Yさんの体調を考慮すると、何年も今の状態を保つのが難しいかもしれない。それならば、今すぐ売りに出す必要はないのではないか。

野澤さんがこのような説明をすると、Kさんも納得されていた様子でした。

その他の資産の相続の話もあったので、野澤さんはKさんに遺言書を持って来てもらいました。すると、その遺言書が無効だということがわかったのです。

自筆証書遺言では、遺言書は本人の自筆でなければなりません。この制度は、2019年に一部改正されましたが、このときKさんが持っていた遺言書は自宅や銀行口座など、すべての表記がワープロ打ちだったのです。
 

>>相続の専門家に相談する

遺言書が認められない

野澤さんが法律に照らして「遺言書が自筆ではないため、有効ではない」とKさんに説明すると、すぐには納得してもらえませんでした。「銀行が認めた遺言書なのに、なぜそのようなことを言うのか」とKさんは怒りをあらわにしていました。

そこで野澤さんは、Kさんのいる前で一緒に司法書士に電話をして、「ワープロ打ちの遺言書は有効ですか」と尋ねました。司法書士の回答は「何を言っているのですか。もちろん無効ですよ」ということでした。その場でKさんに判断を仰ぐと、納得した様子で落ち着いて次に話を進めることができました。

司法書士は法律の専門家なので、直接説明をしてもらうと説得力があります。遺言書が無効になった今の状況では、Kさんは家を相続できず、もしYさんが亡くなってしまえば、自分の判断で売ることはできなくなります。

Yさんの体調がいいときに、遺言書を手書きで書き直してもらうことも考えました。しかし、遺言書の文章が長かったので、Kさんも「全部書いてもらうのは難しい」と判断しました。

さて、Yさんはこの問題をどのように解決したのでしょうか。

【問題のポイント】
1.財産の受渡しをする最中に、財産を受け渡す側が亡くなる可能性がある
2.財産を受け渡す側が作成した遺言書が無効で再作成ができない

野澤さんはここで初めて、Yさんのきょうだいが何人いるかを尋ねました。Yさんに法的な相続人がいるかを知るためです。Yさんは7人のきょうだいがいましたが、すべて他界していました。その子どもたち、つまりYさんの甥や姪は5人おり、そのほか、長年連絡が取れない行方不明者が3人いるとのことでした。

相続人はYさんのきょうだいとその子どもたちなので、今の状況では甥や姪5人と行方不明者3人が該当します。Yさんの甥や姪は全国各地に散らばっていますし、さらに行方不明者がいるとなれば相続は一筋縄ではいきません。

もしYさんが亡くなった場合、遺産を分けるには、遺産分割協議書を作成して、相続人全員の印鑑が必要になります。行方不明者がいる場合は、裁判所が不在者財産管理人を選任し、弁護士などが請け負いますが、「行方不明者の利益を守る」ことを目的としているため、手続きが長期化する可能性があるのです。

つまりこのままだと、将来、もしYさんが亡くなってしまったときに、建物や土地を売買するのは難しい状況になってしまいます。

Kさんは「Yさんが購入して住んでいた家がそのまま朽ち果ててしまうのは寂しい。自分自身もそこに住むことができないので、きれいなかたちで誰かに住んでもらうのが一番いい」という考えで、金銭的な問題は気にしていないとのことでした。

そこで、野澤さんは短期で解決できる方法を提示しました。不動産会社が家を買い取るという選択です。それなら翌日にも現金で購入が可能です。家を売却するのに買い手となる方を探し、ローンを組んで…という時間がかかるプロセスを省くことができます。

Kさんは野澤さんとともに、施設にいるYさんのもとを訪れ、体調に負担がかからない程度にわかりやすく経緯を説明しました。Yさんからは不動産会社に家を売却することについて、承諾を得ることができました。

この時点で不動産の買い取りを進めることもできましたが、野澤さんはKさんにお願いして、Yさんの相続人に当たる、甥や姪に集まってもらうことにしました。この方たちも70代ぐらいなので、念のため、30~40代の子どもたちにも一緒に来てもらいました。

みんなが納得できる解決法を


野澤さんはKさんにお願いして、Yさんの相続人の方たちと、さらにその子どもたちを呼んでもらい、これまでの経緯とともに「すべての方の同意が得られるなら買い取りますが、一人でも反対者がいるなら、買い取りはできません。行方不明の方たちが見つかったときには、『自分の取り分もあったのに』と不満を持たれないように、今回の経緯を説明してください」と説明をしました。加えて、野澤さんは「今の状況では、行方不明者もいることなどから、後々相続の手続きが大変になる」ということも話しました。

野澤さんがこうした丁寧な説明する背景には、相続人たちや地域の方からみて「不動産会社が高齢者をだました、安い値段で買い取りをした」という誤解をされないようにしたい、相続の権利があるすべての人たちの納得を得たうえで、不動産の買い取りをしたいという思いもありました。

結果として、集まってもらった相続人すべての方の同意を得られました。幸いにもYさんの体調が安定したので、集まっていただいた相続人やそのお子さんたちと、Kさん、司法書士、野澤さんが立ち会って、Yさんに自宅を売却する委任状を書いてもらうことができたのです。

不動産を買い取った資金は、Yさんの銀行口座に振り込まれ、野澤さんはKさんに「贈与などで相続するのはどうか」というアドバイスもしました。

問題解決までの流れ
・相続勉強会に参加
・個別の相談(相続内容、資産概要について共有)
・相続関係にある人を含めた相談(相続のタイミングについて考えの共有)
・相続の権利がある人を含めた相談(相続についての考えの共有)
・相談から買取までに要した時間は40日間
・契約金額は550万円

世代を越え信用される不動産会社をめざして

野澤さんはYさんからの相続相談についてこう振り返ります。

「相続知識とともに問題を解決し、最後にYさんから『本当に助かりました。野澤さんに相談してよかったです』という言葉をいただいたとき、自分が進むべき道はこれだ、と思いました」。

野澤さんは相続を学んでいたとき、これほど相続で悩んでいる方や相続について知りたいという方がたくさんいるとは思っていませんでした。不動産会社として相続の需要があるとも想像していませんでした。
ところが、勉強会を始めて、たくさんのお客様に来ていただき、「わからないことを聞けてよかった、勉強になった、もっと話を聞きたい、わかりやすかった、個別で相談したい」といった感想がたくさん寄せられたのです。相続について悩んでいる方が本当に多く、相続の知識はみなさんの役に立てると野澤さんは認識を新たにしました。

「不動産会社が相続なんて…ではなく、不動産会社でしか解決できない相続があると思います。できるだけ、間違った相続対策をする方を少なくできるようがんばろうと思っています」。

不動産を動かすことで、みなさんの悩みを解決したい。野澤さんはそういう思いで相続に伴う不動産の無料のコンサルテーションを続けています。大切にしていることは、あいまいな話をしないこと。こちらから伝えづらいこともはっきり伝えること。今回のケースも、遺言書についてそのまま目をつぶることもできたかもしれませんが、はっきり事実を伝えることが大切だと考えました。

相談を受けるなかで、家族関係のような深い話になることもあれば、必要な手続きを説明したあとで「料金の安い司法書士さんのところにお願いすることにしました」と報告を受けたりすることもあります。コンサルテーションは無料のサービスですが、野澤さんは「相続のことを詳しく知っているということを頼りに来てくださる方がいればいいと思っています。10人に1人か2人、お仕事で何らかの関わりが出てくることもあるでしょう。今の世代だけではなく、次の世代も信頼していただける地場の不動産会社でありたい」と話しています。

【今回相談に乗っていただいた担当者】

<野澤さんプロフィール>
 

栃木県出身。大東建託株式会社、賃貸仲介管理のハウスメートパートナーズ、仲介店長を経て、株式会社丸和住宅に入社。とちぎ未来開発株式会社に2015年に出向し、現職、「地元で頼りになる存在になりたい」との思いで、不動産相続コンサルティング業務も手がけている
 

>>相続の専門家に相談する

 
ご依頼の不動産を無料で査定
3分で依頼完了!
査定金額と活用アドバイスをメールでご送付。
※しつこい営業電話はいたしません。
  【オススメ記事】
相続対策のよくある失敗
相続財産としての評価額を決める際の土地の「利用区分」とは?
不動産相続の手続き・節税方法・必要書類について完全解説
相続で不動産を取得した場合にかかる登録免許税
持っているだけでこんなにかかる?不動産の維持費用

この記事をシェア

相続MEMOをフォロー

相続のプロに聞く

NEXT 【実例】売れない土地を収益物件へ再生したコンサルティング/エスクリエイト
PREV 【実例】貸家の処分、借主の心を動かす交渉術/エイト不動産Lab

関連記事