2020.4.17
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相続のプロに聞く

【司法書士の目~VOL.15】家族信託をはじめる前に知っておくべき10の注意点(2)

(画像=takasu/Shutterstock.com)
(画像=takasu/Shutterstock.com)
認知症対策の切り札として近年注目されている「家族信託」。今回は前回に引き続き「家族信託をはじめるに知っておくべき10の注意点」について解説いたします。前回①~⑤の確認をしましたので、今回は⑥~⑩となります。

※①~⑤については、【司法書士の目~VOL.13】家族信託をはじめるに知っておくべき10の注意点(1)をご覧ください。
※家族信託の制度説明については、【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?をご覧ください。

⑥どの金融機関でも「信託口口座」を開設できるとは限らない

前回確認したように受託者は法律上様々な義務を負っていますが、重要な義務の1つに「分別管理義務」というものがあります。

これは、受託者の「固有財産」と「信託財産」を分けて管理しなければならないという義務です。いくら家族の財産を管理するとはいっても、法律上は他人の財産を管理する場合と同じように管理しなければならないのです。

信託財産が「不動産」である場合、「信託登記」を行うことにより、法律上分別管理義務を果たすことができます。信託登記は信託契約締結後、司法書士に依頼するのが一般的です。

一方、信託財産が「金銭」である場合、どのような管理を行うことで分別管理義務を果たすことができるのかは、法律上明確で定められているわけではありませんが、実務上は、信託開始後新たに「信託口口座」という口座を開設して管理する方法が推奨されています。

信託口口座とは、下記の特徴を有している口座をいいます。
・債権者からの差押えがなされても凍結しない(信託法23条)
・受託者が破産しても破産財団に入らない(信託法25条)
・受託者が死亡しても凍結せず、後継受託者への名義変更がなされる
・信託口口座であることを明確にするため、「委託者X受託者Y信託口」のような
名称が付されている
・受託者個人とは別にCIF(Customer Information File)という顧客管理番号が付されている

特に、家族信託の受託者は「個人」ですので、事故や病気等で委託者よりも先に死亡するリスクが当然存在します。

その際、信託口口座ではなく、受託者名義の通常の口座で管理していた場合には、受託者の死亡により信託金銭を管理していた口座が凍結し、信託が機能不全に陥ってしまう可能性があります。

受託者が破産などをしてしまった場合も同様の状態になり得ます。よって、このようなリスクを回避するためには、「信託口口座」で信託金銭を管理することが望ましいのは言うまでもないでしょう。

ところが、家族信託の普及が進んでいるとはいえ、成年後見制度に比べるとまだ歴史が浅い制度ですので、すべての金融機関で「信託口口座」が開設できるわけではありません(年々対応する金融機関は増えています)。

また、開設可能だとしても、信託金銭の金額や信託契約書の条項など信託口口座の開設には金融機関ごとに独自の基準や条件があります。

お近くに信託口口座の開設に対応している金融機関がない場合や開設の条件などを満たせない場合には、受託者の通常口座で管理する方法を取るケースもあります。
受託者として分別管理義務を果たすことができるなら、法律上信託口口座で信託金銭を管理しなければならないというわけではありません。

信託金銭の管理方法については専門家のアドバイスを受けながら、慎重に決定しましょう。

⑦受託者は信託財産以外の財産管理には対応できない

家族信託は、委託者(財産を預ける人)と受託者(財産を預かる人)が信託契約を締結することにより開始します。

そして、信託契約の中で、委託者が所有する財産のうち、どの財産を受託者の管理に委ねるのかを決定します。これにより、受託者が管理することとなる財産を「信託財産」といいます。

つまり、受託者の管理権限を及ぶのは、信託財産のみとなりますので、信託財産としなかった財産は、今までどおり委託者が自分の財産として管理していくことになります。

よって、どの財産を信託財産とするのかは非常に重要なことになりますので、信託契約締結前に慎重に検討する必要があります。

年齢、生活環境、家族構成、ライフプラン、コスト(信託財産が増えると、登録免許税や専門家報酬などが高くなる可能性があります)などを考えながら、信託財産を決定しましょう。

また、委託者が認知症などで判断能力を喪失した場合に、信託財産以外の財産についても家族で管理していきたいのであれば、任意後見制度の利用を考えてみましょう。

⑧受託者は身上監護には対応できない

上記のように、受託者は、「信託財産」について「管理」する権限しか有していませんので、いわゆる「身上監護」(医療、介護、福祉などの手続きを行う権限)の手続きを家族信託の受託者が行うことはできません。

したがって、身上監護の部分も家族で行えるように万全を期しておきたいという場合は、任意後見制度の利用を検討してみましょう。

⑨損益通算ができない

主に収益不動産を信託する場合に注意すべき事項です。
税法上、家族信託した不動産から生じた「損失」がある場合には、その損失がなかったものとみなされる、とする規定があります。(租税特別措置法41条の4の2)

したがって、家族信託を行った場合には、信託財産の「損失」と固有財産の「利益」を損益通算(利益と損失を合わせて計算すること)ができない、また、損失の繰越しもできない、ということになります。

ただし、同一信託(1つの信託契約書)内での、損益通算はできるとされています。なかなか文章だけでは分かりづらい話なので、下記をご覧ください。

【損益通算のイメージ】
 

複数の収益不動産を所有しているケースでは、特に注意が必要ですので事前に必ず税理士に相談をしましょう。

⑩新たなに税務上の手続きが必要になる場合がある

収益不動産を信託する場合には、確定申告に加えて新たな税務上の手続きや書類が必要となります。実務上、主に下記の2点に注意しましょう。

・受託者は、毎年1月31日までに、信託の計算書及びその合計表を提出する必要がある
・受益者は、毎年の確定申告の際に、不動産所得用の明細書の他に、信託から生ずる不動産所得の金額に関する明細書を作成・添付する必要がある

⑨と同様に、収益不動産を信託する場合には、必ず事前に税理士に相談しましょう。

最後に

いかがでしたでしょうか。家族信託は非常に有用な制度である一方で、利用にあたっては注意点もあります。事前に専門家に相談の上、開始することをオススメします。それでは、次回もお楽しみに。
 
元木 翼 もときつばさ
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア  代表 
家族信託・民事信託のミラシア 
https://kazokushintaku-mirasia.com/

千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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