2020.6.25
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【司法書士の目~VOL.16】家族信託契約書の重要ポイント ~その1~

(画像=New Africa/stock.adobe.com)
(画像=New Africa/stock.adobe.com)
 近年、認知症対策として「家族信託」を利用する人が増えています。家族信託は一般的に、委託者(=財産の管理を託す人)と受託者(=代わりに財産を管理する人)が信託契約を締結することで始まります。家族信託の契約書は、通常弁護士や司法書士などの専門家が作成しますが、複雑な条項が多く、一見すると難解に感じるかも知れません。そこで今回は、家族信託の際に注意していただきたい「家族信託契約書の重要ポイント」について解説いたします。家族信託を検討中の方は、ぜひご一読ください。

※家族信託の制度説明については、【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?をご覧ください。

①    信託の目的

【条項例】

第●条(信託の目的)
 本契約に基づいて設定された信託(以下「本信託」という。)は、信託財産の適正な保全、管理、運用及び処分その他本信託の目的達成のために必要な行為を行い、受益者の従前と変わらぬ安定した生活と福祉を確保した上、信託財産の有効活用を図り、これを適正に承継させることを目的とする。


【解説】
 家族信託を行うにあたっては、その目的をきちんと定めることが必要不可欠です。信託によって達成したい委託者の希望が、受託者により確実に実行されるよう、信託目的は、「受託者の行動指針・基準」となります。これに反して受託者が行動し、委託者の希望や受益者の利益をないがしろにされた場合、受託者はその責任を問われることになるのです。
 また、不動産を信託する際は、信託の登記を行わなければなりませんが、この場合に信託の目的も登記されます。登記は、第三者に公示されるため、それぞれのご家族の事情などに合わせて十分に検討する必要があります。

②    信託財産

【条項例】

 第●条(信託財産)
   本信託の目的財産は、次の各号に掲げる財産とする。
  なお、以下、信託財産のうち不動産を「信託不動産」、現預金その他の金融資産を「信託金融資産」という。
  ⑴ 別紙「信託財産目録」記載の財産
  ⑵ 次条の規定により追加信託された金銭その他の財産
  ⑶ 信託不動産の売却代金、信託不動産を第三者に賃貸した場合の賃料その他信託不動産に関して取得した保険金、補償金、代償金等の一切の金銭
  ⑷ その他信託法により信託財産に属するとされた財産


【解説】
 家族信託は、委託者が所有する財産から信託する財産を選んで行うものですから、信託契約書の中で、信託する財産を正確に特定しなければなりません。不動産であれば登記簿のとおりに記載し、金銭であれば「金〇〇円」と具体的な金額を明記するのが一般的です。なお、金銭について預貯金として「●●銀行●●支店 口座番号●●」いう表記をするケースがたまに見受けられますが、金融機関に対する預貯金債権は譲渡禁止債権となるので、実務上このような記載方法をすべきではないとされています。
 また、信託した財産は「形を変えても信託財産である」という点にも留意すべきです。例えば、信託した不動産を売却し、金銭に変わったとしても、依然としてその金銭が信託財産となります。他にも、信託した収益物件によって賃料収入が発生した場合には、その賃料は信託財産として受託者が管理することになります。

③    信託財産の追加

【条項案】

 第●条(信託財産の追加)
   委託者は、本信託の目的を達成するため、受託者に書面による通知をしてその同意を得た上、信託財産として、前条第1号記載の信託財産以外の不動産、金銭及び有価証券等の金融資産を追加信託することができる。


【解説】
 いわゆる「追加信託」と呼ばれる条項です。本条項により、家族信託がスタートした後も、必要に応じて委託者が信託財産を追加できます。追加信託も、実質的には新たに信託を設定することと同義とされていますので、受託者の同意を得るなど、委託者と受託者双方関与の元で決めた方がよいでしょう。よって、追加信託をする際は、信託契約の締結と同様、委託者の判断能力が必要となります。
 また、金銭だけでなく、委託者自身が所有する他の不動産を追加信託することも可能です。しかし、例えば、「自宅」の管理・承継を目的とした家族信託に、「収益不動産」を追加信託する場合など、前述した「信託の目的」を逸脱するようなケースでは、追加信託することが不適切であると判断される場合もありますので、慎重な判断が必要です。この場合、新たに別の家族信託契約を締結することを検討する必要があります。

④    後継受託者

【条項案】

第●条(受託者等)
1 本信託の当初受託者は、次の者とする。
   住 所:●●
    氏名等:●●
 2 信託法第56条第1項各号に掲げる事由により当初受託者の任務が終了したときは、第二順位の後継受託者に次の者を指定する。
   住  所:●●
    氏名等:●●


【解説】
 家族信託における受託者は、信頼できる家族(=個人)が担うケースがほとんどです。家族信託は、場合によって数十年継続する可能性もある中で、受託者が委託者より先にいなくなってしまうリスクが必ずあります。当初の受託者が事故・病気等の理由で受託者の任務ができなくなる可能性に備えるため、「後継受託者」(当初の受託者が何らかの事由で任務遂行ができなくなった場合に、受託者となる者)を事前に指定しておくケースが一般的です。
 金融機関で信託口口座を開設する場合に、審査の過程で金融機関からも要求されるケースが多いので注意が必要です。
 

>>相続の専門家に相談する

⑤    信託不動産の管理、運用及び処分等の方法

【条項案】

第●条(信託不動産の管理、運用及び処分等の方法)   
~抜粋~ 
⑷ 受託者は、本信託の目的に照らして相当と認めるときは、受益者(受益者代理人が選任されている場合は受益者代理人)の書面による承諾を得て、信託不動産を換価処分し、又は信託財産に属することとなる新たな土地・建物の購入、開発、建設、建替え、解体等を行うことができる。また、受託者は、これらの信託財産に属する土地及び建物に係る滅失・建物表題等の表示に関する登記、所有権保存・移転・信託等の権利に関する登記その他一切の登記手続を行う。
 ⑸ 受託者は、本信託の目的に照らして相当と認めるときは、受益者(受益者代理人が選任されている場合は受益者代理人)の書面による承諾を得て、信託不動産に関する賃貸借契約の締結、変更、解除をすることができる。
 ⑹ 受託者は、本信託の目的に照らして相当と認めるときは、受益者(受益者代理人が選任されている場合は受益者代理人)の書面による承諾を得て、金融機関から信託財産に関して必要となる借入れをするに際し、信託不動産に抵当権、根抵当権、質権、譲渡担保その他の担保を設定することができる。


【解説】
 受託者の具体的な権限を定めた条項です。信託目的を達成するため、受託者が確実に財産管理や処分を継続できるよう、細心の注意を払って作成することが求められます。どのような場面でどのような権限を受託者に与えるのかは、ケースによって異なります。信託の目的、信託財産、家族構成、財産構成などを考慮しながら、慎重に条項を作成することが求められます。

最後に

 今回は、「家族信託契約書の重要ポイント ~その1~」について説明をさせていただきました。契約書の作成には、法律上の複雑な論点が多く絡み合っていますので、専門家と相談しながら、各家庭に合わせたオーダメイドの契約書を作成してもらうのが良いでしょう。
 次回は、「家族信託契約書の重要ポイント ~その2~」として、信託の変更や信託の終了の局面を重点的に説明します。
 
元木 翼 もときつばさ
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア  代表 
家族信託・民事信託のミラシア 
https://kazokushintaku-mirasia.com/

千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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