2020.6.27
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相続のプロに聞く

【司法書士の目~VOL.17】家族信託契約書の重要ポイント ~その2~

(画像=sewcream/stock.adobe.com)
(画像=sewcream/stock.adobe.com)
認知症対策の切り札として近年注目されている「家族信託」。今回は前回に続き「家族信託契約書の重要ポイント」について解説いたします。

※前回については、【司法書士の目~VOL.16】家族信託契約書の重要ポイント ~その1~をご覧ください。
※家族信託の制度説明については、【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?をご覧ください。

①    受益者代理人等

【条項案】

第●条(受益者代理人)
1 本信託の受益者代理人として次の者を指定する。
   住 所:●●
   氏 名:●●


【解説】
 家族信託を安心して続けていくため、信託契約を結ぶ際に「委託者」、「受託者」、「受益者」だけでなく、受益者を守り、受託者を監督する立場である「受益者代理人」も一緒に設定する場合があります。
 家族信託の継続中に、受益者が認知症等で判断能力を喪失した場合には、受託者の信託事務をチェックする機能が失われてしまいます。また、「受託者と受益者の合意によって決定する」というような条項を信託契約書に定めていた場合、受益者が判断能力を喪失していた場合には合意が成立せず、信託事務が停止してしまうことになりかねません。
 そこで、受益者代理人を設定することで、受益者に代わって受託者を監督し、必要なときに信託財産の給付を請求できるようになります。受益者代理人は、信託契約締結の際に設定しておく必要があるので、いざというときに手遅れにならぬよう、事前に検討し受益者代理人の条項を設けておきましょう。なお、受益者が判断能力を失ったとき受益者代理人の職務が開始するなど、開始する条件を付けることも可能です。
 その他、受託者を監督する者として「信託監督人」を設定するケースもあります。信託監督人は、受益者代理人と異なり、受託者を監督する権限のみが与えられており、何でもできるわけではありません。
 これらを設定すべきかどうかは、事案によって個別に検討する必要がありますので、契約書の作成前にしっかり検討しておきましょう。

②    信託の変更

【条項案】

第●条(信託の変更) 
 本信託は、本信託の目的に反しない限り、受託者と受益者(受益者代理人が選任されている場合は受益者代理人)との合意に基づく公正証書によって、本信託の内容を変更することができる。 ただし、信託の目的に反しないこと及び受益者の利益に適合することが明らかであるときは、受託者の書面による意思表示によって、本信託の内容を変更することができる。なお、この場合に受託者は、受益者(受益者代理人が選任されている場合は受益者代理人)に対し、遅滞なく、変更後の信託行為の内容を通知しなければならない。


【解説】
 家族信託は契約してからが始まりですが、終わりに関しては親が亡くなるまで継続するものではなく、次の世代まで続くようなケースもあります。そうなりますと、信託を始めた頃とは事情が変わり、契約内容を変更したい局面が訪れることも想定しておかなければなりません。例えば、受託者の権限を縮小・拡大したい場合や、信託の終了時期を変更したい場合などが挙げられます。
 信託の変更は、基本的には受託者と受益者双方の合意によって行うのが一般的です。注意しなければならないのは、受益者が認知症等の発症により、判断能力を喪失しているケースです。この場合、信託を変更したいのに、変更できないという状況に陥る可能性があるからです。この対策として、受益者を代理する「受益者代理人」を選任していれば、受託者と受益者代理人との合意によって信託を変更できるようにする方法が考えられます。なお、受益者の利益を害するおそれのない軽微な変更であれば、受託者単独で変更できます。
 いずれにしても、原則として、信託の変更は「信託の目的」の範囲内で行うことが原則となります。当初定めた信託目的から逸脱するような変更を行った場合、もはや同じ信託とは言えないからです。
信託契約書の変更を検討する際は、必ず専門家に相談しましょう。
 

>>相続の専門家に相談する

③    信託の終了

【条項案】

第●条(信託の終了)  
 本信託は、次の各号のいずれかに該当することとなったときは終了する。
   ⑴委託者兼受益者が死亡したとき
   ⑵信託財産が消滅したとき
   ⑶受託者及び受益者(受益者代理人が選任されている場合は受益者代理人)が本信託を終了させる旨を合意したとき 
   ⑷その他、信託法に定める終了事由が発生したとき


【解説】
 家族信託においては、信託が「いつ」「どのような場合に」終了するのか、明確にしておくことが重要です。
 認知症対策で利用されることが多い家族信託では、「委託者兼受益者が死亡したとき」という定めを設けることが一般的です。なぜなら、委託者兼受益者が死亡してしまったときには「認知症対策」を行う必要がないからです。
 当たり前のことではありますが、受託者が管理すべき「信託財産」がなくなってしまったときも家族信託は終了することになります。
また、不測の事態が生じたときや、家族の事情が変わったときに備えて、「受託者及び受益者が本信託を終了させる旨を合意したとき」という定めを設けておくと安心です。これにより途中で信託を終了させることも可能となります。 
信託が終了した場合には、残った財産が誰に承継されるのかを決めておかなければならないので、次に説明する「残余財産の帰属先」と深く関連しています。

④    残余財産の帰属先

【条項案】

第●条(残余財産の帰属等)
1 第●条第1号記載の事由により本信託が終了したとき(※委託者兼受益者が死亡したとき)は、本信託終了時の残余の信託財産を前記●●に帰属させる。ただし、信託の終了以前に同人が死亡していた場合は、同人に帰属させるとした残余の信託財産を、●●に帰属させる。
 2 前項に記載した以外の事由により本信託が終了したとき(※合意終了など死亡以外の事由で信託が終了したとき)は、信託終了時の残余財産の帰属権利者として、その時点における受益者を指定する。 


【解説】
 信託が終了したとき、残った財産は誰が取得するのでしょうか。これまで管理してきた受託者が当然に取得するのではありませんし、自動的に相続人に承継されるわけではありません。信託が終了したときに財産を取得する人やその定め方を、事前に信託契約書に定めておくことが必要となります。
 第1項では、受益者が死亡したときに誰に承継させるのかを定めています。また、人が亡くなる順番は分からないので、先にその人が亡くなった場合、誰に承継させるのかについても定めておく方が良いでしょう。
 第2項では、合意終了など受益者の死亡以外の事由で終了した際の条項です。この場合、受益者はまだ存命いるため、受益者以外の人に承継させてしまうと贈与税が発生してしまうので注意が必要です。財産を承継したい人に確実に渡せるよう、しっかりとした信託契約書を設計することが重要です。

最後に

 今回は2回に分けて「家族信託契約書の重要ポイント」について解説しました。家族信託は、終了までに数十年かかることもありますから、先々のことをきちんと想定して契約書を作成することが重要です。
 
元木 翼 もときつばさ
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア  代表 
家族信託・民事信託のミラシア 
https://kazokushintaku-mirasia.com/

千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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