2020.7.31
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相続のプロに聞く

【司法書士の目~VOL.21】家族信託を始める前に要チェック!“相続法”大改正のポイント②

(画像=billionphotos-com/stock.adobe.com)
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相続法改正と家族信託

2019年7月1日から段階的に新しい相続法が施行されています。家族信託は相続が発生する前の認知症対策(財産管理対策)として用いられるケースがほとんどです。そして、相続とも非常に密接な関係があります。なぜなら、家族信託は委託者兼受益者(通常は高齢の親)が亡くなったときに終了すると設定することが多く、家族信託の開始時に相続についても検討することになるからです。

前回は、「自筆証書遺言の方式緩和」について取り上げてみました。今回、今年の7月からスタートした「自筆証書遺言書の保管制度」について確認してみましょう。実務上、家族信託と同時に遺言書を作成するケースも多くあります。これから家族信託を始めようと考えている方は、制度の内容をしっかり理解しておきましょう。

遺言とは

 制度の説明を始める前に遺言についての基本的な知識を確認しておきましょう。そもそも遺言とは法律上、どのようなものをいうのでしょうか。
 遺言とは、自分の財産を誰にどのように承継させるかを決めておく書面です。民法所定の方式により作成することで効力が発生します。
遺言には、次のようなメリットがあるとされています。

①    “争族”となることを防止できる
 遺言がなかった場合は、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。しかし、協議がうまくいかず、紛争に発展してしまうケースが増えています。遺言により分割方法を決めておくと、このような紛争を防止できます。

②    相続人が相続手続をスムーズに進めることができる
 遺言があると、相続発生後すぐに相続手続に着手することが可能です。また、上で述べたように遺産分割協議が不要となるため相続手続にかかる時間を短縮できます。

③    自分の思い通りに財産を承継できる可能性が高くなる
 遺言に記載すれば、自由に承継先や配分を決定できます。遺留分に配慮する必要がありますが、必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありません。また、相続人ではない人に遺贈したり、慈善団体に寄附したりすることも可能です。

 遺言には下記のとおり4種類あります。ただ、殆どの場合、遺言者が自筆で作成する「自筆証書遺言」と公証人が作成する「公正証書遺言」のどちらかが利用されます。

①自筆証書遺言
・遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印鑑を押すことによって成立する遺言(民法968条)
・遺言執行時には家庭裁判所で「検認」が必要となる(ただし、遺言書保管制度を利用した場合は不要)
②公正証書遺言
・公正証書によって作成する遺言(民法969条)
・公証人の前で、遺言の内容を口授し、公証人がその内容を文書にする
・証人が2名必要となる
③秘密証書遺言
・一定の方式に従うことにより、遺言書の内容を秘密にできる遺言(民法970条)
・公証人の関与が必要となる
・検認が必要となる
④危急時遺言
・遺言者に死亡の危険が迫っている場合に、一定の方式に従うことにより、上記①~③の方式のよらずに作成できる遺言(民法976条)
・遺言の日から20日以内に家庭裁判所で「確認」という手続きが必要となる

自筆証書遺言のデメリット

 自筆証書遺言は、第三者に知られることなく、遺言者が低コストで手軽に作成できるのが最大のメリットです。一方で、次のようなデメリットがあります。

・自筆証書遺言を紛失してしまうリスクがある
・自筆証書遺言が一部の相続人により隠匿されてしまったり、変造されてしまったりするリスクがある
・相続開始後に検認(※)が必要となる

※検認とは、家庭裁判所に遺言書の存在および内容を確認してもらう手続き。なお、公正証書遺言の場合には検認は不要。

自筆証書遺言書保管制度とは

 上記のようなデメリットを解消するために今回創設されたのが、「自筆証書遺言書保管制度」です。(施行日2020年7月10日)
 これは、作成した自筆証書遺言書の保管を本人が法務局の遺言書保管官に申請すると、遺言書の原本が法務局に保管され、その画像情報が法務局の保管ファイルに記録される制度です。。
 本制度は、基本的に遺言書の作成者自身が法務局へ出向き、本人確認を経て手続きが行われます。そして、これにより保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所による検認が不要となり、相続発生後の手続きがスムーズになることが期待されています。
また、法務局で預かることにより、全国一律のサービスを提供できる、プライバシーを確保できる、相続登記の促進につながる、といったメリットがあげられます。
 遺言書の保管申請を行うには、まず自筆証書遺言を作成したうえで、法務局(遺言書保管所)に遺言書保管申請を行う必要があります。
 遺言書保管申請は、①遺言者の住所地、②遺言者の本籍地、③遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所に対して、事前予約後に遺言書本人が行います。
 その際、下記の書類を準備する必要があります。

・遺言書
※ホッチキス止め・封筒不要
・申請書 
・住民票の写し(本籍の記載ある住民票の写し・作成後3ヶ月以内)等
・本人確認書類(有効期限内のものをいずれか1点)
マイナンバーカード 運転免許証 運転経歴証明書 旅券 乗員手帳 在留カード 特別永住者証明書
・手数料(1通につき3,900円)
※必要な収入印紙を手数料納付用紙に貼付して提出する。

 申請が完了すると、遺言者の氏名、出生の年月日、遺言書保管所の名称及び保管番号が記載された保管証が発行されます。また、保管番号があれば、変更の届出や相続発生後に遺言書情報証明書の交付の請求がスムーズに行えます。

自筆証書遺言書保管制度の特徴① ~対象となる遺言と厳重な改変防止策~

 前述のとおり、本制度の対象となるのは、無封状態の自筆証書遺言です。例えば公正証書遺言は、その原本が公証役場で保管され、民法上検認手続きも不要です。したがって法務局で二重に保管することは困難ですし、その必要性もありません。秘密証書遺言の最大のメリットは、第三者に内容を知られずに遺言書を封印できることです。そのため、遺言内容を画像情報として保存する本制度とは相容れないことになります。法務局が保管するにあたり、封印された遺言書では、民法上の方式に従って作成されていることが確認できません。また、封書の中に遺言書ではない文書が在中している可能性も否定できません。
 本制度の利用には、遺言書を作成した本人が管轄の法務局に出向き、手続きを行う必要があります。郵送による申請や代理人による申請は認められていません。これには、本人確認を徹底することにより、第三者によるなりすましの申請を防ぐ狙いがあります。そのほか、直接の出向を求められる例としては、保管した遺言書を本人が閲覧請求する場合や、本人が遺言書の保管を撤回する場合が挙げられます。

自筆証書遺言書保管制度の特徴② ~保管された遺言についての情報開示~

 本制度を利用した後、遺言書の保管申請をした本人は、いつでも遺言書の閲覧請求と遺言書保管申請を撤回できます。このときに本人が法務局に直接出向く必要がある点は前述のとおりです。
 保管された遺言書について利害関係を有する者(例えば相続人、受遺者など)は、「遺言書情報証明書の交付」、「遺言書の閲覧」、「遺言書保管事実証明書の交付」について、それぞれ請求できます。ただしこれらは相続の開始後、つまり遺言者が死亡した後にしか請求できません。これは「相続開始前に内容を知られたくない」という遺言者の心情を尊重するためです。
 なかでも、「遺言書情報証明書の交付」と「遺言書の閲覧」については、申請者のみが遺言の内容を知ることになります。そこで、他の相続人との公平性の観点から、申請を受けた法務局の遺言書保管官が、他の相続人等に対して、遺言書が保管されている旨を通知することが原則とされています。このとき、検認手続と同様の書類(相続人全員を特定する戸籍など)の提出が求められます。

自筆証書遺言書保管制度の留意点

 遺言書の保管申請をするにあたり、法務局の遺言書保管官によってチェックされるのは、あくまで自筆証書遺言の方式に従っているかという点です。つまり、作成時点で遺言者の判断能力があったかどうか、遺言者の想いが正確に反映されているか、あるいは家族にとって望ましい内容であるかなどは法務局で確認されません。これらについては、あくまで遺言者自身で判断する必要があります。保管申請の前に、作成した遺言書の内容を弁護士や司法書士などの専門家にチェックしてもらう方がよいでしょう。

最後に

 自筆証書遺言書保管制度の開始により、遺言書の作成が手軽にできるようになりました。ただ、上述のように遺言書の内容面や効力面においてはやや不安が残るのも事実です。
家族信託契約書は公正証書で作成することになりますので、家族信託と同時に作成する際には、少しコストがかかります。しかし、公正証書遺言の形式で作成した方が手続きは簡単です。
 家族信託と同時に遺言書を作成するべきか、遺言書の形式や内容は、相続に大きく影響しsます。事前にしっかり検討しておきましょう。
 
元木 翼 もときつばさ
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア  代表 
家族信託・民事信託のミラシア 
https://kazokushintaku-mirasia.com/

千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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