2020.8.2
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相続のプロに聞く

【司法書士の目~VOL.22】家族信託と同時に遺言の作成を検討すべき3つの理由

(画像=new-africa/stock.adobe.com)
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はじめに

 近年、超高齢社会の進行にともない、家族信託の利用が急増しています。家族信託は、文字どおり「家族」を「信」じて財産を「託」す、新しい財産管理の手法です。主に、生前の認知症による財産凍結(=判断能力の低下により不動産の売却などができなくなること)の対策として利用されています。
家族信託にはもう1つの重要な機能があります。それは、財産を承継させる機能です。家族信託を利用することで、信託財産(管理権限を受託者に移転する財産)を誰に承継させるか、事前に決めておくことができます。
 財産の承継といえば、従来から「遺言」が利用されてきました。生前対策といえば、遺言を思い浮かべる方が多いでしょう。
それでは、家族信託を利用すれば遺言は不要になるのでしょうか。実際には家族信託ではカバーしきれない事例があり、遺言の作成を組み合わせることで問題を解消できます。今回は「家族信託と同時に遺言の作成を検討すべき3つの理由」について解説します。

遺言とは

 遺言とは、自分の財産を誰にどのように承継させるかを事前に決めておく書面です。遺言は単独行為とされているため、誰かと契約する必要はなく、遺言者1人で作成できるのが特徴です。遺言には、いくつか種類があります。一般的によく利用される、遺言者が自筆で作成する「自筆証書遺言」、公証人が作成する「公正証書遺言」のほか、特殊な利用ケースとして「秘密証書遺言」「危急時遺言」の4種類です。2019年の法改正により自筆証書遺言が書きやすくなったこともあり、これまで以上に遺言の作成件数は増加していくといわれています。

※遺言の詳細については、「【司法書士の目~VOL.20】家族信託を始める前に要チェック!“相続法”大改正のポイント①」をご覧ください。

家族信託とは

 家族信託とは、不動産や金銭などの財産の管理や承継を、信頼できる家族に元気なうちに託しておく制度です。一般的に家族信託を開始するにあたっては、委託者(財産の管理を託す人)と受託者(財産の管理を託される人)が信託契約を締結します。信託契約の中で、受益者(信託から利益を受ける人)や信託財産(管理権限を受託者に移転する財産)などを決定します。
 信託契約の中では、帰属権利者を定めることも重要です。帰属権利者とは、信託が終了したときに信託財産を承継する人のことです。帰属権利者を事前に決定しておけば、財産管理だけでなく、財産承継についても事前に決めておくことができます。

※家族信託の詳細については、「【司法書士の目~VOL.2】認知症対策の切り札「家族信託」とは?」をご覧ください。

家族信託と同時に遺言の作成を検討すべき3つの理由

 以上のように、家族信託にも遺言にも財産の「承継」機能があります。つまり、家族信託、遺言どちらでも財産の引継ぎはできることになります。それでは、家族信託をしておけば遺言を作成する必要はないのでしょうか。
 結論から述べると、家族信託と同時に遺言の作成も検討した方が良いといえます。筆者は司法書士として、家族信託や遺言作成に多く関わっていますが、そのお客様の中でも家族信託と遺言をセットで作成されるケースが多々あります。
 それでは、なぜ遺言についても別途検討すべきなのでしょうか。

〈理由①〉家族信託は全財産を対象にすることはできないから

 家族信託では一般的に、すべての財産の内、どの財産を信託するかを信託契約で決定します。信託契約で信託の対象とされた財産を「信託財産」といいます。「信託財産」は、受託者にその管理権限が与えられ、信託が終了するときには、信託契約によって指定された人に承継されます。言い換えれば「信託していない財産」は、何もしていない状態と同じです。何もしていない財産は、本人が死亡したとき、遺言がなければ原則として遺産分割協議(=相続人全員で誰が相続するか話し合うこと)が必要になります。
 信託財産には、家族の判断であえて信託しない財産もあれば、性質上そもそも信託できない財産もあります。代表的なものは、年金と農地です。年金は性質上本人(親)しか受給できませんので、信託の対象とすることは不可能です。よって、信託開始時点のすべての財産を信託したとしても、その後の年金は本人の口座に入金されます。また、農地については農地法という法律により信託できないことになっています。以上の例のような財産が本人(親)にあれば、すべての財産を信託することはできないということになります。
 このように家族信託の対象とならなかった財産は、遺言で承継先を決定しておく必要があります。家族信託を検討する際に重要なのは、信託財産を決定するのと同時に、信託しない財産、信託できない財産の承継をどうするのかを検討しておくことです。

〈理由②〉遺言でしかできないことがあるから

 家族信託は、主に生前の財産管理と死後の財産承継のために利用されます。一方、遺言は死後の財産承継のために利用されます。本人の死後、初めて効力が発生するものですから、生前の財産管理機能はありません。
 しかし、単なる財産承継の機能だけでなく、遺言でないと行えないこともあります。例えば、「未成年後見人の指定」がこれにあたります。未成年者に対して最後に親権を有している人は、自分の死後に親権を与えたい人(未成年後見人)を、遺言で指定できます。また、「相続人の排除」も家族信託では行うことはできません。これは、相続人が自身を虐待していたなどの事実があったときに、その者の相続権を剥奪させるものです。その他に、遺言によって親が「子を認知する」こともできます。このように、遺言には家族信託には無い機能があるので、これらを検討している方は別途遺言を作成すると良いでしょう。

〈理由③〉家族信託は途中で終了する可能性があるから

 前述のように、家族信託をした財産は、親が死亡した際には、信託契約で定めたとおりに承継させることができます。しかし、注意しなければならないのは、必ずしも親の死亡によって信託が終了するとは限らないということです。信託の終了事由は、信託法(信託法第163条~)によって定められています。例えば、「受託者が死亡などの理由で不在となり、新たな受託者が就任されないまま1年間継続したとき」、「信託の目的が達成できなくなったとき」、「当事者の合意によって終了させたとき」、などがあります。家族信託を始めたときは、親が死亡するまで続けるつもりであっても、事情が変わって途中で信託を終了するに至る場合もあります。
 この場合、信託していた財産は本人に戻すのが一般的です。本人以外に渡すと、生前に贈与したのと同様、多額の贈与税や不動産取得税が発生する可能性があるからです。信託が終了し財産が本人に戻った場合、その財産の承継先を指定するには遺言の作成が必要ですが、このとき既に認知症になっていれば、遺言を作成できません。
 したがって、家族信託が途中で終了する場合に備えて、別途遺言を作成しておくことには一定の意義があります。

最後に

 家族信託は認知症対策(財産管理対策)だけでなく、相続対策(財産承継対策)も同時に行える有用な方法ですが、家族信託だけで生前対策が万全というわけではありません。今回は、遺言との組み合わせについて解説しましたが、任意後見制度と家族信託を同時に利用するケースもよくあります。
生前対策をどのように組み合わせて行うかは、ご自身の希望、財産構成、家族構成などによって異なります。一度専門家に相談をして整理をしておくことをおすすめします。
 
元木 翼 もときつばさ
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア  代表 
家族信託・民事信託のミラシア 
https://kazokushintaku-mirasia.com/

千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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