2020.8.17
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相続のプロに聞く

【司法書士の目~VOL.24】家族信託を始める前に要チェック!“相続法”大改正のポイント③

(画像=andrey-popov/stock.adobe.com)
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相続法改正と家族信託

2019年7月1日から段階的に新しい相続法が施行されています。その一つが家族信託です。家族信託の主な役割は、認知症対策(財産管理対策)ですが、相続対策とも密接な関係にあります。なぜなら、家族信託を開始する際は、信託財産の承継先だけでなく、信託しなかった財産の承継先も決定することが多いからです。家族信託を検討すると同時に、相続についても検討することになります。そこで、相続法の改正ポイントをきちんと理解しておくことが、家族信託をはじめるうえで大切です。

「配偶者の保護」が改正の大きなテーマ

 今回の相続法改正では、「配偶者の保護」が大きなテーマの1つとなっています。
 超高齢社会がますます進行するなかで、相続が発生したときの配偶者、相続人も高齢化しています。残された配偶者にとって重要なのは、住み慣れた住居の居住権とその後の生活資金の確保です。ところが、現行制度ではこれらの確保が不十分なケースもあることから配偶者保護のための施策が導入されました。
 まず、2019年7月1日から「持戻し免除の意思表示の推定規定」が追加されました。今後は相続が発生した際、配偶者がより多く財産を取得できるようになります。また、配偶者の居住権を確保するために、2020年4月1日から配偶者短期居住権と配偶者居住権という権利が創設されました。
 なお、これらの配偶者保護の規定は、法律上の配偶者にのみ適用される、内縁配偶者や事実婚当事者などは対象外です。
 今回(VOL.24)と次回(VOL.25)で配偶者保護のために新しく導入されたこれらの制度について確認していきます。

「持戻し免除の意思表示の推定規定」とは

 以前から、配偶者の老後の生活保障などを理由として、配偶者に居住用不動産を贈与または遺贈することはよく行われていました。
 ところが、生前贈与や遺言で居住用不動産を取得すると、相続の際に金銭など他の財産を取得できなくなる可能性がありました。例えば、夫が妻に自宅を生前贈与した場合、「それは遺産の先渡し(特別受益)である」として、夫の死亡後に財産を分ける際、生前贈与した自宅も含めて(持ち戻して)遺産として計算されていました。つまり、生前に自宅を貰っていた妻はその分お金がもらえなくなります。この意味で、この不動産取得には生前贈与の恩恵がありませんでした。
 そこで、今回の改正により、①婚姻期間が20年以上である夫婦の一方が、他方に対し、②その居住用建物又はその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合、③ 民法第903条第3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定する規定ができました。この規定により、遺産分割においては、原則として生前贈与または遺贈された自宅の持戻し計算が不要となり、この際当該居住用不動産の価額は特別受益として扱わずに計算します。
つまり、①・②の要件を満たせば、自宅を貰っても「遺産の前渡し」にはなりませんので、今までよりも多くの財産が相続できます。これによって配偶者のその後の生活が保障されやすくなります。
この改正により、夫婦間で行われる自宅の贈与が増えるといわれていますが、注意点が2つあります。
まず、持戻しの免除が推定されるといっても遺留分の侵害にならないわけではありません。自宅の生前贈与や遺贈を行う前に遺留分についてしっかり検討しましょう。
また、持戻し免除の対象とされているのは、「居住用不動産」のみです。夫婦間の贈与税の特例として、「婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できる」という制度がありますが、この制度と異なり「金銭の贈与」は対象外であることに注意しましょう。
 

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「配偶者短期居住権」とは

 夫が死亡したとき、夫の財産である自宅に住んでいた妻は、相続発生後も住み慣れた自宅に住み続けたいと思うのが一般的でしょう。しかし、相続の争いにより妻が自宅から出て行かなくてはならないケースも増えてきました。そこで、配偶者の居住権を短期的に保護する制度が新設されました。
 従来の制度では、相続の発生直後、残された配偶者の住まいの保護は不十分といわれていました。最高裁の判例である「相続開始時にその自宅に居住していたのなら、夫と妻の間で使用貸借契約が成立していたと推認する。」という法理を用いていたためです。この法理では、夫が生前に第三者へ遺贈する遺言書を作成していたり、夫が生前に明確に反対する意思表示をしていたりした場合、妻の居住権が保護されない可能性がありました。
 そこで、本改正により、被相続人所有の建物に配偶者が無償で居住していた場合、遺産分割によりその建物の帰属が確定する日、もしくは相続開始の時から6か月を経過する日の遅い方の日まで、建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得できることになりました。
これにより、残された配偶者は、相続発生後「最低6ヶ月間」は、住み慣れた住居に無償で居住できるようになりました。たとえ、被相続人が第三者に居住建物を遺贈していた場合や反対の意思を表示していた場合であっても、配偶者の居住権が保護されます。
 配偶者短期居住権の注意点は下記のとおりです。

・配偶者短期居住権に財産的価値はないので、遺産分割の際に配偶者の相続分からその価値分を控除する必要はない(つまり、配偶者短期居住権が成立するからといって配偶者がもらえる財産が少なくなるわけではない)
・相続人の廃除又は欠格事由に該当する配偶者には、配偶者短期居住権は認められない(ただし、配偶者が相続放棄をした場合は認められる)
・配偶者短期居住権は第三者に譲渡することはできない
・配偶者には、建物の「使用」権限があるだけで、「収益」権限はない
・配偶者は、「通常の必要費」(建物の保存に必要な修繕費や固定資産税など)を負担しなければならない

最後に

今回は配偶者保護の施策として、「持戻し免除の意思表示の推定規定」と「配偶者短期居住権」について説明しました。なかなか難しい話だったと思いますが、配偶者の万が一の事態に備えて理解しておきたい内容です。次回は、相続法改正の目玉ともいわれている「配偶者居住権」について取り上げます。
 
元木 翼 もときつばさ
司法書士法人ミラシア・行政書士事務所ミラシア  代表 
家族信託・民事信託のミラシア 
https://kazokushintaku-mirasia.com/

千葉商科大学特別講師
一般社団法人OSDよりそいネットワーク 理事
日本弔い委任協会 理事

相続、遺言、後見、家族信託などが専門。相続・終活関連の相談実績は1,000件を超える。豊富な経験・事例を基に、“オーダーメイド”の相続・終活対策サービスを展開している。
 

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